誰そ彼 Vol.05 レポート

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0001-420.jpg彼岸音楽会『誰そ彼 Vol.5』 レポート
(文・遠藤卓也)
日時:2004年12月25日土曜日 17:00~21:00
出演:あがた森魚、竹久圏ソロ(KIRIHITO / GROUP)、ccd

誰そ彼初の試みとなる冬季開催。夏のように雨の心配は無いものの、気温が兎に角心配でした。当日の日中は冬晴れ、太陽が少しだけ温度を残してくれたせいか、夕闇が降りてきた後も極寒という程にはならず、なんとかなりそうな予感です。開場前に既に誰そ彼はやってきていて、音楽が流れ出す頃にはすっかりと闇が光明寺を覆っていました。テラスの真下に深く闇を広げる墓地、そしてそれとは対照的に、煌々と光りを放ち聳え立つ東京タワーには2004年のネオン文字。その文字が2005年に変わるのも間近な師走の一夜です。世間はクリスマス故に、各所で狂騒が繰り広げられていましょうが、此処はお寺、輪郭をすっかり飛ばされた何物かを、漸く判別できる程度に届く柔らかな光と、黒い溝を走る針が奏でる暖かい音楽が堂内の陰影を創り出していきます。

0002-420.jpg(*写真はクリックで大きく表示されます
最初にライブアクトとして登場したのはccdさんです。広告代理店に勤められながらボランティア活動を積極的に行っておられ、更に古神道を研究し、それを活かした和的情緒溢れるリリックをキックなさるという多面的なアーティストです。堂内にHIPHOPのビートが鳴り響き、袴姿で登場したccdさんは椅子に座したままラップを披露。欧米のサンプリングビートに載るヤマトの言の葉、米国人司会者とのバイリンガルなかけあいMCとヒューマンビートボックス、エキゾチックな出で立ちのダンサー女性にパーカッション演奏と、正に国境も宗教も音楽ジャンルも越えたアンビバレントなライブアクトとなりました。そんな、エンターテインメント性の盛り込まれたステージングにお客さん達も終始笑顔が絶えませんでした。

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そんな古神道研究家のccdさんからマイクをパスされたのは、彼岸寺を運営している松本坊主。12月25日の開催となると坊主的にも流石に無視は出来ないクリスマスについて言及した親和性の高い法話で堂内を沸かせます。

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さて、ここでまた浄土真宗のお寺だという現在位置を再確認しつつも、誰そ彼は旅を続けます。今度はスペース・ジャーニーとでも表現できましょうか、サーファーズ・オブ・ロマンチカの宮原秀一氏によるDJが始まります。当サイトのヒガン・ディスクレビューのコーナーにて、氏ならではの視点でお寺にフィットしそうなCDを紹介してくれているだけあり、なんとも流麗なる選曲で誰そ彼を彩ります。うっとりするような闇を創り出し、次なるアクト・竹久圏さんへと美しい流れで繋ぎました。

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竹久圏さんはKIRIHITO、GROUPという二つのバンドで活躍しています。それぞれの音楽を聴けば明らかなのですが、二つのバンドで見せる竹久さんのギターの表情は大きく違うようでいて、でもやっぱり根っこは竹久さんであるという事を痛感させられるとても不思議な魅力を持ったギタリストです。今回はソロ演奏という事で、どんな顔を見せてくれるのかと期待していましたが、やはり竹久さんにしか成しえない演奏で会場内を弦の響き一点に惹きつけていました。歌っていないのにそこにうたがあるような、弦6本のストーリーテラー。これまでギターのみのインストゥルメンタルというアクトは登場した事がなかっただけに、お寺にあう音楽の定義をまた一歩押し広げて頂いた感があります。ラストに取り上げたジャズ・スタンダード「What a wonderful world」では、この不変のメロディーが今こうして私達に届くまでの時間を想い、ロマンを感じずにはいられませんでした。

そして、こんなロマンチックな気分を終わらせてたまるかと、誰そ彼スタッフによる入魂の選曲時間で繋ぎます。ヴァン・ダイク・パークス『ソング・サイクル』や、ビーチ・ボーイズ『サーフズ・アップ』などのドリーミーな音楽が堂内を満たして、大トリをつとめて頂くあがた森魚さんの登場を待ちました。

0006-420.jpgあがた森魚さんのライブは普段はバンド編成が多いそうなのですが、今回はお寺でのライブという事でギター一本での弾き語りとなりました。あがたさんのとても優しい声が広がった瞬間、堂内にあたたかい空気が流れ出します。若いお客さんが多かったせいか、丁寧に解説を加えながらご本人曰く“ちょっと渋い選曲”で演奏してくださいました。あがたさんご自身が大変尊敬なさっているという、稲垣足穂さんの日記を引用した曲や、光明寺のアップライトピアノでの弾き語りで「いとしの第六惑星」、お馴染み「赤色エレジー」まで、みている者の熱をも喚起するような素晴しい熱演です。幻想的な歌詞と何処かノスタルジックで安心の出来る歌声で、その世界にどんどん引き込まれていきます。そして終盤に演奏されたのが「佐藤敬子先生はザンコクな人ですけど」です。2001年にリリースされた同名アルバムの楽曲で、実際にあがたさんが小学生の時に出会い強烈な印象を受けた恩師に捧げられた歌です。惜しくも亡くなられてしまったそうですが、佐藤敬子先生へ対する想いがひしひしと伝わってきて、そのエモーションに思わず涙を浮かべる人も居ました。音で感情を揺さぶられるなんてとても素晴しい体験だと思います。そして終演後も拍手はなかなか鳴り止まず、なんと再度ご登場してくださって誰そ彼史上初のアンコール演奏となりました。有難うございました!

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